HPの「Bladeと仮想化はじめてセミナー」

日本HP - HP BladeSystem セミナー情報
今日は午後休暇をとり、一個人として上記のセミナーに参加させていただきました。
ビジネスに直接繋がらない個人の参加を受け入れているHPさんの懐の深さにまずは感謝です。

さて、BladeCenterファンの私としては、HPさんのお話を聴いた上でさらに比較を進めたいところです。早速印象に残った点をBladeCenterと対比させて書いてみます。

  1. HP BladeSystem c-Class(以下c-Class)のミッドプレーンは電源経路について板給電を用いることで、壊れづらさを極限まで追求している
    • IBM BladeCenter(以下BladeCenter)では電源を含むすべての経路を二重化しているが、これは壊れることを想定しているもので、確かにサービスは止まらないかもしれないが交換の際には全サービスを停止する必要がある
    • 理論的に壊れないミッドプレーンを作れるなら、ある意味BladeCenterのように実質2枚のミッドプレーンに分ける必要はないわけで、こと「壊れない」ことを前提にするなら、HPのアプローチは正しいと言える
    • ただしHPは今日のセミナーで、ミッドプレーンの故障は過去になかったというトーンで話を展開していたが、e-Classまでさかのぼれば故障の実例を個人的に知っている。本当にこのデザインで「壊れないのか」については不明
  2. c-ClassはHP社内のシステム統合を目的に設計されたものであり、そこにはマーケティングや開発部門だけでなく、運用担当者の意見が最大限取り入れられている
    • このため、使いやすさにHPは非常に大きな自信を持っている。使いやすいと実感できる技術はすべて取り入れていると自負している
    • BladeCenterについてはこのあたり、公に開発経緯が公開されているのを見たことがない。だからといって使いづらいのかというとそれは違うと思うが、BladeCenter側の設計思想をもう少し明確にしてほしいところ
  3. ファンや電源を含め、すべてのコンポーネントが小さく設計されている
    • 実際BladeCenterを見慣れた私が見て、c-Class自慢のジェットエンジン・ファンは非常にコンパクトにまとまっている印象を受けた。電源についても細長さこそ目立つが、見た目に大きさは感じない
    • 消費電力の観点から、これらのコンポーネントの効率性や数が問題になるという論調はBladeCenter側と同じ。ただし、HPはBladeCenterのファンのほうが少ないという事実については、冷却の観点からネガティブな印象をオーディエンスに伝えようとしている(冷却ムラ)
    • この点についてはBladeCenterの場合、冷却性能に問題はないことを明示しており、数が少ないことによるメリット(故障率)を挙げていることからアーキテクチャーの違いと認識することができる。どちらが良いかは一概に判断できるものではないかもしれない
  4. HPのiLO2リモートコントロールは秀逸
    • 共有ローカル・コンソールがつかないc-Classは、ドングル・ケーブルを用いて各サーバーにKVMをつなぐこともできるようにはなっているが、そもそもそれを使うことそのものを推奨していないように思われる。それだけ、ネットワーク経由の使い勝手に自信があると見える
    • 実際ActiveXを使ったリモート・コントロールJavaベースのBladeCenterのそれと比較して非常に高速であり、ことサーバー運用という観点で言えば、ローカル・コンソールの代わりのPCをマシンルームに置いておくだけで代替策となりうる印象を受けた
    • とはいえ所詮リモート・コントロールなのか、デモ中に2回ほど、マウスカーソルがPC側と同期されなくなる現象が起きていた。デモ担当者の方はあわてることなくActiveXコンポーネントを再起動していたが、短い時間のデモであの状態だと、多少いらつくかもしれない
    • BladeCenterはローカル・コンソールを使っている限り、基本的にその使い勝手は完全なラック型サーバーのそれと同等と言える。つまり、使う担当者がローカルの使い勝手を好むのか、複数のリモコンを同時に使い分けることを望むかといった部分がひとつの選択のポイントになるのであろう
  5. Insight ManagerとVM管理用コンポーネントの使い勝手はIBM Directorの適うところではない
    • ほぼ完全な日本語化とシンプルな表示、Webブラウザーによる操作性のいずれをとっても非常に良くできていると感じる
    • 特にVMware Infrastructure 3のデモの途中、ありとあらゆる操作をInsight Manager側から行っていたのは衝撃。VMware VIクライアントとの使い分けには言及していたものの、見たところVirtual Centerの出番はないのではないかと思えるほどの出来であった
    • この点BladeCenterは明らかに不利。日本語化は十分ではなく、Virtualization Managerは英語のまま。VI3環境だけを想定するのであれば、VIクライアントのほうが使い勝手は良い
    • Onboard Administratorは英語のままで、ここはBladeCenter Advanced Management Module(AMM)と同じだが、それでも画面のつくりはInsight Managerに準じており、おそらく慣れた管理者は迷うことはない。AMMはDirectorと明らかに操作性が違う
  6. エンクロージャーの継続性
    • 以前このサイトでも書いたが、c-Classはp-Classとの互換性を完全に捨て去っていて、そこをIBMに突っ込まれまくっている。それに対してHPは、c-Classのアーキテクチャーを最低5年間使うことを明言することで、過去は忘れてくださいというスタンスのようだ
    • 5年間と明言することそのものはIBMはやっていないので、この点に好感を持つユーザーは多いと思われる。なにせこれまでHPのブレードのシェアは日本では決して高くない。過去に痛みを感じたユーザーはそう多くないと言うことができるので、これから5年使えるなら・・・という感覚を持つのは悪いことではない
    • それでも5年後、いや2007年の今から数えると4年後には、またアーキテクチャーの全面刷新の可能性があるのなら、個人的にはちょっと受け入れられない。19インチラックの仕様が変わらないように、ブレードのエンクロージャーは基本アーキテクチャー(フォーム・ファクター)を継続しながら進化するのが望ましいと信じる
  7. Virtual Connectの力技
    • サーバー・ブレードのMACアドレスやWWNが記録されているFlashROMを書き換えてしまうことで、エンクロージャー外部からサーバー・ブレードの管理を切り離してしまうというまさに力技
    • FlashROMはサーバー・ブレードが抜かれたときに書き戻されるということで、本来のMACやWWNに対する倫理感をぎりぎり守っていると言えるアーキテクチャ
    • MACによる制御はあまり一般的ではないとセミナーでも語られていたが、WWNについては業界全体の標準化がすすめられているNPIV(N-Port ID Virtualization)との整合性が気になるところだが、確かに現時点では同じソリューションをBladeCenterも、BladeSymphonyも提供できていない
    • 実際にはBladeベイごとのMAC/WWNのプリセットが必要になるので、使いがっては思ったほど良くない可能性もある

以上のようにHPさんのお話だけを聞くと、BladeCenterファンの私ですら、その素晴らしさに洗脳されそうになります。今月から上記のセミナーは定員を倍増させたということなのですが、それでも毎回満員御礼ということですので、注目度の高さは明白です。ご興味のある方は一度聞いてくることをお勧めしたいですね。ただし、BladeCenterの話を同時に聞かないと、公平な判断はおそらくできません。たとえばBlade3.0という説明の中では、あたかもc-Classが業界ではじめて、ネットワークやストレージの統合に使えるインフラとなったようにおっしゃっていましたが、これは異論のあるところです。2002年からスイッチとストレージの統合を視野に入れていたBladeCenterは、いわば他社が1.0の時に3.0のレベルを走っていたといえるわけで、c-Classが追いついたと見るのが妥当でしょう。また、シャーシの選択肢がないことから、HPさん自身が例示していた500kg/m^2の対荷重のマシンルームにおける1ラックあたりの最大サーバー数は、c-Classで30台に対してBladeCenter 42台と、BladeCenterのほうが高密度設計が可能となっており、アドバンテージはIBMにあります。消費電力も実測値ベースでBladeCenter/BladeCenter Hのほうがc-Classより小さく、スイッチの選択肢も豊富です。
当たり前のことですが、要は設計思想やこれまでのそれぞれの会社の生い立ち・経緯がかなり違うことから、結果的に似た製品がいくつかの点で異なるアプローチを取っているだけだということなのでしょう。どちらのブレード・サーバーが自社に良いのか、という選択は、ユーザーが賢く選択すべきということなのだと思います。
以上が一応技術者ビューで見た今日のセミナーのまとめなのですが、ほかには

  • 市ヶ谷のHP本社はきれい
  • セミナー・ルームのあった4Fもすごくきれい
  • 講師は2人、司会は1人、サポートする説明員が3〜4人おり、全員が最初から最後まで同席
  • 有名人のHP山中氏はやはり話がうまい
  • 見せ方をきちんと考えられるマーケティング能力

などには感心させられました。セミナー・ルームではc-Classが動いているところは見せてもらえません。設備的な問題もあるのかもしれません。その音が体感できなかったのはちょっと残念でしたが、それもHPさんの戦略かもしれませんね。見せていただいたビデオの中のc-Classファンは、1台でも結構な音を発しているようでしたし。

以上、レポートでした。